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隆二さんはゆったり微笑み、私が持っている携帯を手で静かに下げた。
「そんな気ぃ使わなくて良いって」
「うん、でも……」
「良いんだよ?二人で撮っても。A、付き合ってから1回も撮りたいって言ったことないよね」
「あ……私、結構ボーッとしてる時あるから。何かの拍子で二人で撮った写真誰かに見られたりしたら大変!あと、隆二さん知ってる?写真って撮れば撮るほど記憶から薄れるんだって」
「そうなの?」
「うん。こうやって、隆二さんとむせかえるような緑の中を歩いたこと……記憶から薄れてくの勿体ないじゃないですか」
それに、あとでその1枚を見返すより、二人で記憶を引き出して語り合う時間の方が良いって、私は思うから。
「だから、良いの。写真なんか撮らなくても」
私は笑いかけたけど、隆二さんは少し切ない表情になった。
そして、その表情のまま私の頬に指先で触れる。
「Aが、そういう風に言うから……」
「言うから……?」
聞き返したとき、隆二さんが「ん?」空を見上げ、つられて顔を上げた私の頬に水滴が落ちてきた。
「雨……」
呟いたときには、ザザザザッと音を立てて雨が激しくなった。
「スコール!?」
「え!?まじ!?」
雨季のこの時期、1日に1度はスコールが降るとは聞いていたけれど、よりによって今だなんて。
「ちょっ、すげぇな!」
「どうします!?」
細かい雨にじっとり濡れる、なんて可愛いもんじゃない。
雨は肌や地面に容赦なく当たり、パシッと音を立てて跳ね返る。
「あそこの店まで取り合えず走ろ!」
目を凝らすと、向こうにカフェなのかお土産屋さんなのか分からないけれど、小さなお店が見えた。
「行こ」
隆二さんが、私の手を握って走り出した。
濡れたワンピースが体に張り付くので、私は裾を持って足を蹴りだす。
大きくゆれるカーテンのような雨景色の中、私たちは跳ねる泥に子供みたいに声を上げながら夢中で走った。
それはまるで、あの朝の景色。
禁断の一夜を過ごしたあと、キラキラ光る雨の中、隆二さんに肩を抱かれて走ったあの朝と同じ。
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2019年2月5日 20時