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運転手さんと帰りの待ち合わせ時間を決めて別れてから、私たちは入村料を払って歩き出した。

手を繋いで歩く、緩やかな坂道。

気温は30度にまで上がり、じわりと汗が滲んでくる。

「あっちー」

「冬から夏に来ちゃったから余計に暑いですね」

「ねー？」

ひとつの水を交互に飲みながら、ゆっくりゆっくり坂を上っていく。

「何か……全然日本人居なくね？」

「うん、欧米の人ばっかり。もっと日本人居るかと思ってたなぁ」

「……日本人居ないからこういうことしちゃおー」

隆二さんは二人の腕を絡ませ、恋人繋ぎに手を握り直した。

隆二さんとこんなにくっついて歩くのは初めてで、私の回りだけ35度超えの気温みたい。

「ちょっと……恥ずかしいかも」

「って言ってるわりにはニコニコだけど」

隆二さんに軽く体を押され、私は俯いてはにかんだ。

「あ！あれじゃない？」

「え？」

隆二さんの指差した先に、濃く萌える緑が現れた。

私たちは自然と駆け出す。

「「おぉー……」」

目の前に広がっていたのは終わりの見えない棚田の風景。

見下ろすと、まるで海のように緑の田が広がっている。

「すごい……」

鮮やかな曲線で区画された田畑が延々と続く風景の中では、吹く風さえも青々として見えた。

「いやぁ、思ってたよりすげぇな……」

「うん……」

近くまで下りても大丈夫だと言われ、私たちは足元に気を付けながら棚田の中へと入っていった。

前へ進む度に水と緑の匂いが濃くなっていく。

しっとりした重みのある、街では感じることのない匂い。

土と稲と水が触れて、初めて生まれる匂い。

「どっから入ってきたか分かんなくなっちゃうね」

「本当……あっ、隆二さん。写真撮りましょうか？」

「うん」

私は携帯を構えて「隆二さんもうちょっと後ろかな」と、手を出した。

画面の中には、何故か首を傾げてる隆二さん。

「ん？どうかしました？」

「いや、二人で撮るのかと思って」

「あ！そうだったんだ！私、隆二さんがブログに載せる写真必要かなぁと思って」