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隆二さんは暫くネックレスを見つめたあとハッと我に返ったような表情になった。
「お前何語ってんだよ。俺遅刻してんだよ」
「話振ったのそっちじゃん!」
私たちは肩を揺らして笑い、軽くハグをした。
「気を付けてね、いってらっしゃい」
「ありがと。いってきます」
慌ただしく家を出た隆二さんの背中に手を振り、私は微笑んだ。
こういう、何気ないことが、幸せ。
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玄関の万年カレンダーが11月1日になった。
私は純奈と電話で話ながら、デートに向けてお化粧中。
“ねぇ、何で11月1日が一周年記念なのー?違うじゃん”
「うちら離れてた期間があったし、10月は隆二さんバタバタしてたでしょ?だから仕切り直し的な意味も込めてね、そうしよっかって言ってたの」
“それでかー”
目尻のまつげだけを慎重にマスカラで上げながら、私は「うん」と頷いた。
“んで?何すんの?一周年デートは”
「私知らないんだよね……隆二さんがお客さんの気分でって言ってて……」
口紅が並ぶケースの上で迷っていた指先が、ディオールのリップグロウ4番を掴む。
“あれじゃない?目黒区役所”
「ん?」
“婚姻届出しに行くデート”
「は!?」
口紅を、リップブラシでえぐりそうになった。
「そのデートを先に世田谷区役所でするのは純奈でしょーが。健太郎くんにちゃんと言った?気持ち言った?」
“言ったよー?”
「どうだった?反応は!?」
“穏やかーな表情で頷いてた。言ってくれてありがとうって。健太郎も、じゃあこれからどうすんの?って思ってたみたいで”
私は“イーッ”と唇を伸ばしてブラシを滑らせながら同時に“ニーッ”と頬を緩ませた。
「ほらぁ、闇子もたまには良いこと言うでしょ?」
“本当だね。ありがとA”
「いえいえ……あ、時間!」
“あぁ!ごめん話し込んじゃって!じゃあ楽しんで来てね!”
「うん、ありがとう!いってきます」
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2019年1月14日 17時