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「そうですよね……先のことは」
「うん。取り合えず今は腹減った」
お腹をさすりながら笑う隆二さんの笑顔は太陽みたいで、私は眩しさに目を細める。
「じゃあ片付け終わったらご飯行きます?」
「行こ。こんなもんさっさと終わらせて行こ」
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隆二さんと二人で目指すお店は、渋谷。
週末の渋谷は人が多くて、私は傘と傘がぶつからないように気を付けて歩いた。
少し前をビニール傘をさして歩く隆二さんは、時折振り向いては私が着いて来てるか確認してる。
子供じゃないんだから迷子になったりしないよ?って言いたくなるけど、でもそんな心配性な優しさが嬉しい。
「寒くない?」
スクランブル交差点の赤信号に足を止めたとき、隆二さんがそう訊ねて私の顔を覗き込んだ。
「うん、大丈夫」
頷いた瞬間、
街頭ビジョンの映像が切り替わって、
大きなモニターいっぱいに、隆二さんが現れた。
「あっ!」
それは、新曲のMV。
3つのビルそれぞれに、同時に同じ映像が流れているのは圧巻。
「おっ」と反応した隆二さんは携帯を取りだし、街頭ビジョンを写真に収め始めた。
雨に濡れた傘がモニターからの光を受け、隆二さんの表情を虹色に染めている。
ちょっと切ないくらい、綺麗な表情。
私は一歩下がって、モニターを写す隆二さんの後ろ姿を写真に1枚撮った。
見上げれば、街頭ビジョンの中で歌う彼。
携帯の画面には、5秒前の彼。
目の前には────
「……雨か。ビックリした、泣いてんのかと思った」
そう言って、私の頬についた雨粒を指先でぬぐう彼。
現在、過去、未来。
どこにピントを合わせるか、いつも悩んでた。
過去に合わせれば未来が滲む。
未来に合わせると、今がぼやける。
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2019年1月14日 17時