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真由が施設に来たのも、こんな風に雨が降る梅雨のある日だった────。

“仲良くしてね”と先生に紹介され頭を下げた真由は、全ての物が湿気を帯びてしまいそうな蒸し暑い6月の終わりにも関わらず、長袖を着てタイツを履いてた。

でも、そのことを指摘する子は誰もいない。

私と同じ5年生だと言うことで、部屋も同じになった。

その年の七夕。

真由は短冊にこう書いた

“お母さんが早く死にますように”

短冊を見つめ驚いている私に、先生はとても穏やかな口調で語りかけた。

“親が居なくて辛い子もいれば、親が居るから辛い子もいるんだよね”

あの頃から、私は思うようになった。

すべては“たまたま”だと。

私に起きたこと、真由に起きたこと、みんなに起きたこと

全部“たまたま”だと。

真由の母親は、その１年後に肝臓を悪くしてこの世を去った。

見えない影から解放されたあの日の真由の力強い顔を、私は今でも覚えている───。

「あっ」

ワイパーの隙間から真由の姿を見つけ、私は窓を開けて彼女の名前を叫んだ。

「真由！」

あっ、とこちらに顔を向けて歩いてくる彼女の姿。

私は思わず車から出て、彼女に駆け寄った。

「真由！」

「久しぶりー！ごめんね！迎えに来てもらっちゃって！え、これ、Aの車！？買ったの！？凄くない！？やっぱさぁエリートだわ、エリート」

「ちょ、ちょ、ちょ！」

「何？」

「お、お腹。それ、太ったんじゃないよね！？」

「まぁ、太ったには太ったんだけどね」

真由はあの頃と変わらない柔らかい笑顔でお腹に手を当てた。

「２月に産まれまーす」

「……何か、泣きそう」

「何で！？」

2016年、10月のある雨の日。

真由との再会が、私の未来を

また少し動かしていくことになる。