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それは、隆二さんたちのアルバムを買ったときに特典でついてきたポスター。
結局貼らずに丸めたままだったポスターを持ったまま、私は丸い窓の方を向く。
暗い部屋と、リビングからの微かな灯りと、丸い窓。
そこに、冴えない表情の私が映り込んでいた。
じっと見つめていた窓の中。
後ろに人影が見えて、私は慌てて振り返った。
「あ、ごめん陽ちゃん。あったよスリッパ」
何事もなかったようにポスターをクローゼットにしまう私に、陽ちゃんが訊ねた。
「何かあったの?あの人と」
「………何にもなかったんだよね」
「え?」
「何にもなかった……隆二さんと私、何にもなかった……」
好きとか嫌いとか、そんな言葉も交わさないままで
約束もなくて、
出会えた奇跡さえ、今は悔やんでる。
「何にもないまま、終わっちゃった……」
「Aちゃん」
「ごめんね、湿っぽくて。料理、手伝うよ」
リビングに戻ろうとした私の腕を、陽ちゃんが強く掴んだ。
「俺のこと、何だと思ってる?」
「何って……陽ちゃんは、」
「辛かったよ、ずっと。あの人のこと見てるAちゃんの目を見る度、辛かった」
真っ正面から言われた言葉。
「俺、男だよ。料理の上手い友達じゃない」
視線がぶつかって、私たちは長く目を合わせた。
沈黙と静寂の間で、お互いの胸のうちを探るみたいに視線を絡ませる。
「うん……そうだね」
誰かに体を開いてしまえば、
体の表面に残っている隆二さんの体温は消えるだろうか。
胸の内側に出来た、あざれた恋の火傷のあとも消えるだろうか。
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────ゆっくりと、陽ちゃんが私をベッドに押し倒した。
温かい息が首にかかって、繊細なその手に私の髪が絡まる。
香水をつけない彼の服からは、優しい匂い。
首筋へのキスを受け入れるために顔を左に向けた。
────そのとき
星のピアスのポストが、耳の後ろにチクッと刺さった。
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2018年9月16日 14時