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部屋に上がった陽ちゃんは、キッチンを見るなり「おお!広い!」とシンクの縁を撫でた。
「サイズが向こうのやつだから。でもね、コンロの下はオーブンじゃなくて魚焼きグリルなの。そこは日本っぽいでしょ」
「あ、本当だ」
コンロの下を覗いた陽ちゃんは「グリルでも色々料理出来るしね」と、手を洗い始めた。
「何作ってくれるの?」
「何も食べてないんでしょ?おかゆにする?鶏のおかゆ」
「何それ!すっごく美味しそう!」
「お米から作るから1時間くらいかかっちゃうけど、大丈夫?」
「大丈夫!待つ待つ!」
料理を作り始めた陽ちゃんの背中を、私はダイニングテーブルのバースツールに座り、暫く眺めていた。
きっと私、疲れてたんだ。
仕事も忙しかったし、隆二さんとのこともあったし。
隆二さんとの一件が悲しいとか忘れられないとか、そんなんじゃなくて、ただ元気がなくて食欲がなかっただけ。
今、こんな風に誰かとちゃんと会話できてる。
大丈夫。
「陽ちゃんて、料理人って感じしないよね」
「え?じゃあ何に見える?」
「んー……アパレル店員」
「おしゃれじゃん」
笑う陽ちゃんの肩が、小刻みに揺れる。
「ごめんね、陽ちゃん。疲れてるのに」
「気にしないで良いよ」
「ありがとう。持つべきものは友達だね。料理上手な友達」
私はふと、陽ちゃんの足元に目をやり「あっ!」と叫んだ。
「ごめん!スリッパ!」
「え?」
「床、冷たいでしょ?ごめんね、気付かなくて。本当ちょっと、昨日からどうかしてて」
私は自分の履いていたスリッパを陽ちゃんの足元に置いた。
「取り合えずこれ履いてて!まだ使ってないのが私の部屋にあるから取ってくる」
私は小走りで自分の部屋に入り、クローゼットを開けた。
「この辺に……あった!」
スリッパを出したと同時に、床に何かが落ちた。
リビングから射し込む灯りだけじゃそれが何か分からず、私は腰を屈め、床に落ちたものを拾い上げた。
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2018年9月16日 14時