失意の夜。 ページ5
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「ただいま」
家に帰ると「あれ?あれ?あれ?」と言いながら純奈がリビングから出てきた。
「A、早くない?」
「うん」
しゃがんで靴を揃え、私は一呼吸置いてから立ち上がる。
「ねぇ、どうなったの?右の人の話って何だったの?」
「うん」
「うんじゃなくて」
リビングに入ると、テーブルには私の食べかけのポテトやハンバーガーが綺麗に纏めて置いてあった。
「Aー」
冷めきったハンバーガーをかじり、私は純奈に笑いかける。
「待って。これ食べてお風呂入ったら言うから」
「何勿体ぶってんの!?」
「そんなんじゃないってば!ちょっと待って」
まだ、泣きそうだから、ちょっと待って。
「フレッシュネスって冷めても美味しいんだね!じゃあお風呂入ってきます」
バスルームの中で泣こうかと思ったのに、涙は一滴も流れなかった。
“明日、この人は目の前から消えるかもしれない”
そう思いながらの恋愛だったから?
それとも、あのとき感傷的になってただけ?
髪を乾かして洗面所から出ると、純奈がドアの前で待ち構えていた。
「ねぇ!何の話だったの!」
「もう、会わないことになった」
「え?」
自分の部屋に入ろうとする私を、純奈が「ちょっと!」と呼び止める。
「会わないことになったって何!?何で!?」
「何でも。もう、そうなっちゃったの」
「はぁ!?」
「何かさ……泣くの堪えてたのに、今は泣けないの私。あんまり悲しくないのかな?芸能人と出会って浮かれてただけで、本当はそんなに好きじゃなかったのかもね」
「そんなわけないじゃん……」
私は純奈に背を向けドアノブを握った。
「明日、私休みだから。おやすみ」
部屋の電気もつけずに、私はベッドに潜り込んだ。
壁際の丸い窓には、いつもと同じ、ただ夜だけが浮かんでいる。
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「A、起きてる?」
一睡も出来ずに迎えた朝。
ドア越しに声を掛けられ、私は「うん」と返事をした。
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2018年9月16日 14時