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隆二さんに対する私の思いは、この波みたいだ。
好き
だから会わない
好き
だから会わない
寄せては返すばかりで
終わりがない────
「……帰ろ!」
お尻についた砂をはたき、私は駅へと歩いた。
バッグを肩にかけ直し、電車の時間を確認しようとした瞬間、背後からクラクションが鳴らされた。
何?と振り向いた私は、そこに停まっている車を見て「あっ」と声をあげる。
「Aー久しぶりー」
後部座席から顔を出したのは、
「嵐士!久しぶり」
純奈が“パラジウム”と呼ぶ、私の元彼“嵐士”だった。
私は車に駆け寄り、窓の高さに合わせて腰を屈める。
「どうしたの!?ビックリした」
「クラクションで俺って分かった?」
「分かるよ。ベントレーの後部座席から私に声かけるの嵐士くらいしか居ないもん」
「良かったよ、2人も3人も居なくて」
人懐こい笑顔も、どこか冷たい印象を与える目元も、仕立ての良いスーツも、付き合っていた頃と何も変わらない。
「家に帰るの?」
「うん」
「乗れば?電車使うより早いよ」
「あ……じゃあ、そうしようかな」
運転手さんがドアを開けに出ようとしたのを「大丈夫です!」と止め、私はフカフカのシートに乗り込んだ。
「1年ぶりくらいか」
「うん」
彼とは、別れてから共通の友人の結婚式で会ったきりだった。
「いつ日本に帰ってきたの?」
「今日。カナダ行ってたんだ」
「カナダ?」
「うん、向こうに法人作ったから、それでね」
「すごいね。相変わらず世界を飛び回ってるんだ」
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2018年9月16日 14時