No.1510。4 (ページ25)

今日:19 hit、昨日:28 hit、合計:447,223 hit

3 ページ25

・

「……でも、隆二さんのこと応援するって決めたから私。影ながらね」

「だったら行きなよ、ドーム」

「だから、チケットないって」

「あ！ほら！他のメンバーの連絡先知ってるじゃん！岩ちゃんだっけ？」

「コネ使ったら全然“影ながら”じゃないじゃん！……って言うか純奈早く忘れ物取りに行きなよ！雨酷くなるよ！？」

渋々フロアを出ていく純奈を見送り、私はまた、そっと手帳を開いた。

────“俺が来てほしいんだから、俺が席を用意するのは当たり前じゃない？”

朝までやってるあのカフェで、私たちは約束をした。

でも、あれはもう無効。

東京ドームに私の席が用意されることはないだろうし、万が一チケットが手に入ったとしても私は行けない。

行って彼の姿を見たら、胸に出来たかさぶたを剥がしてしまうことになる。

いつか、懐かしいと思える日までは会えない────

.

.

.

.

.

.

.

翌日は予報通り、東京に台風の影響が出ていた。

電車が遅れ出す前に帰るように会社から通達が出て、私はまだ昼過ぎなのに退勤の処理をしていた。

「お疲れー」

「あ、チーフ。お疲れ様です」

「どう？電車大丈夫そう？」

「はい、大丈夫そうです。チーフこそ大丈夫ですか？車」

「だよなー、置いて帰ろうかな」

エレベーターまで歩きながらそんな話をしていると、チーフが「あっ、そう言えば」と手を叩いた。

「今度、例のプロジェクトの会議あるんだ。ほら、センセイの。お前欠席しても、」

「出ます！」

「良いよ、無理しなくて。顔見たくないだろ」

「大丈夫です。最近、あのセンセイ主導で進んでる気がして嫌だったんです。私、センセイの目の前に座ります」

「圧かけるってか！？」

「まさかー……お話しやすいようにですよ」

エレベーターに乗り込むと、チーフは「良いなぁ、したたかで」と笑いだした。

「し、したたか！？私がですか！？」

「したたかって誉め言葉だよ。“強か”って書くんだから。そういう負けん気の強いとこ、大事にしろよ」

────強か。

良い言葉じゃないか。