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器を持ち上げたそのとき、純奈の携帯が鳴り、彼女は腰を屈めて暖簾の外に出た。
私はそんな彼女の姿を目で追ったあと「替え玉下さい」と器をカウンターの上に置く。
「細いから少食かと思って麺少なくしといたんだけど足りなかった？」
屋台のお兄さんの訛りを含んだ言葉に笑顔で頷いて、私は飲み掛けだったビールを喉に流した。
微かに聞こえる純奈の話し声を耳に入れながら、足元に目をやる。
そこにはマナーとして買ったグッズのマフラータオルが入った袋が、荷物入れのカゴの中でくったりしていた。
「A」
純奈に呼ばれたのと替え玉がカウンターに置かれたのはほぼ同時。
「何？」
純奈はお箸で麺を持ち上げた私の隣に座り、少し声のトーンを落とした。
「健太郎、ライヴの打ち上げやってんだって。ここの近くだからおいでって」
「あ！そうなんだ！？じゃあ行っておいでよ！私はこの替え玉を食べたらホテルに戻りまーす」
「あんたも来るんだよ！」
「なんで！？」
「メンバーも一緒だから！」
「メンバーって……ん？」
私はグッズが入っている足元の荷物入れを指差した。
「そう！ん！」
純奈も同じように荷物入れを指をさす。
「……無理無理無理！行かない行かない！純奈だけ行って！」
「なんでよ！」
「あの人たちのことよく知らないし！」
「別に良いじゃん」
「私さっきライヴ行ったんだよ！？そんな……そんな……プライベート垣間見るようなとこダメだって！」
「いーじゃん！喋ったりしないで遠巻きに見てれば！」
「ダメだって！私部外者だし！健太郎くんがあとで何か言われたら可哀想」
「その健太郎がAも一緒にって言ってんの！」
「ちがーう！健太郎くんは純奈に早く会いたくて誘ったんだよ！私はついで」
「ついででも何でも良いじゃん！」
「無理！私、明日会議あるから朝イチの飛行機で東京帰るんだし！」
「それがどうしたんだし！」
純奈は私のバッグや荷物を腕に抱え、顎でカウンターをしゃくってみせた。
「早く食べな。行くから」
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作者名：ぽち。
| 作成日時：2018年7月24日 22時
