No.1510。 (ページ44)

今日:33 hit、昨日:29 hit、合計:500,816 hit

2 ページ44

・

純奈はベッドに座り、サイドテーブルの上に置いたままだった本をパラパラめくり出した。

「A」

「ん？」

「あれから右の人から連絡あった？」

“ううん”と首を振ると、後ろで１つに束ねた髪も合わせて揺れた。

「たまにはAから連絡してみたら？」

「なんて？“こんにちは”とか？」

「それでも良いし“私のこの黒いレースの下着見てください”でも良いし」

「それ完全にイッてる女じゃん！」

私はゲラゲラ笑い、雑巾をバケツの中に入れた。

「純奈知ってた？隆二さんって、圧接屋さんだったの」

「え！？ガス圧接！？」

「そう！しかも職長」

「一人だけヘルメットの色違う人じゃん！」

「そーなの！」

職長は“じゃあ君、今日から宜しくね”とバイトリーダーみたいに任せられるものじゃない。

法律で定められている職長教育というのを受けた人でないと担えない。

「Aー、右の人のこと調べたなぁ？」

「し、調べたぁ」

仕事の休憩時間や移動中、眠る前のわずかな時間に、私はチョコチョコと隆二さんのことを調べた。

彼が向こう側の人で良かったと、初めて思った。

名前を入れれば、ネットが基本情報を教えてくれるから。

「で？で？右の人の好きなタイプは何て載ってた？」

「笑顔が素敵で周りに気が使え、明るく元気な人……だって」

「……ねぇ、そんな女はこの世にいませんって右の人に連絡してあげなよ」

「いるんだよー……きっといるんだよ。で、その人が隆二さんの彼女なの。きっと」

「まだ彼女居るかどうか聞いてないの？」

「うん……」

「ふーん……」

純奈は返事とあくびが混じったようなものを吐き出し「昼寝してくる」と部屋を出た。

私は一人になった部屋で、純奈が座った時に出来たベッドのへこみに腰を下ろす。

そして丸い窓から外を見る。

お向かいさんも大掃除をしているのか、ベランダにマットやカーペットが干されていた。

────たまにはAから連絡してみたら？

「連絡……」

なんて連絡すれば良いか、本当に分からない。