No.1510。 (ページ40)

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「おかしくないよ？好きになるのにタイミングとかないんだから」

「そうかなぁ……何か、自分が凄く軽薄な女に思える」

「どうして？」

「こんなにすぐ簡単に誰かを好きになるって……軽いよね」

「全然そうは思わないけど……」

「ううん、そう。だって、何で好きになったのかも良く分かってない」

「世の中には“一目惚れ”って言葉があるくらいなんだから、そういうこともあるんじゃない？」

「うーん………取り合えず船乗ってくる。お疲れ」

「タブレットどうすんの！？」

「あげるぅ」

会社を出た私は、いつものルートで日の出桟橋に向かい18時発のホタルナに乗り込んだ。

「寒い……」

デッキに出ると、師走の冷たい風が容赦なく髪を乱してくる。

手すりに掴まり、私は「はぁ」と白い息を空に舞い上げた。

「Aちゃん」

白い息が消えるか消えないかのところで声をかけられ、私は体の向きを変える。

「あ、陽ちゃん」

陽ちゃんは「さみぃなぁ」と体を震わせ、私の隣に立った。

陽ちゃんの着ているモッズコートのフードに付いたファーが風に揺れて、何だか気持ち良さそう。

「ねぇ陽ちゃん。タブレットって右手で出すとちゃんと一粒ずつ出るの知ってる？」

「……左手で出したことないよ」

「あ、そっか……」

陽ちゃんは鼻をすすり、両手をポケットに突っ込んだ。

「さみぃ……まじで」

「……陽ちゃん、全然知らない人のこと好きになったことある？」

「全然知らない人？」

「うん。例えば……その人の年齢とか趣味とか、どこで生まれたとか……恋人が居るか居ないかとか。知らないの、全然」

「あぁ……あるかもね」

「本当？」

「うん。何かさ、ちょっとしたきっかけじゃん。人を好きになるって。よーく知ってる人でも恋愛関係にならない人も居るわけで」

「うん」

「理屈じゃないんじゃないかなぁ、そういうの」

船が、東京タワーの横を通りすぎようとしていた。

昨日、私と隆二さんの間にあった東京タワー。

「きっかけか……」