No.1510。 (ページ35)

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「あの店員さん？」

「ほら、仔犬っぽい店員さん」

「……あ！陽ちゃんですか！？あの、髪がフワッとしてる」

「そうそう！陽ちゃんって名前なんだ……何かさ、うちの岩ちゃんに似てない？」

────岩ちゃん。

岩ちゃんって何だ。

“うちの”ってことは、隆二さんの周りに居るんだろうけど……仔犬っぽい陽ちゃんに似てる岩ちゃん……

隆二さんの飼い犬？

私は、隆二さんのことをよく知らないけど、ひょっとしたら犬を飼ってるのかも……

「……めっちゃ目ぇ細めてるけどどうした？」

「え、いや……あの……岩ちゃん……ですよね」

「うん、似てない？」

「岩ちゃん……」

「……あ、ごめん。似てないか」

いや、もう、岩ちゃんって何っていう……

「あの……岩ちゃんって……？」

隆二さんは目を自由形に泳がせて、自分の小鼻を指でなぞった。

「うちの岩ちゃん。岩田」

「ちょっと……存じ上げません。すみません、不勉強で」

「……嘘でしょ？」

「え？」

「ライヴ観たって嘘でしょ？」

「い、行きました！」

「嘘だよ！それで岩ちゃん知らないとかないって！」

「嘘じゃないですよ！チ、チケットの半券まだ財布に入ってますから！見せましょうか！？」

私は財布の小銭入れに入ったままだった半券を、隆二さんに向けて「んっ！」と付き出した。

「どれー？」

私の手元を覗き込んだ隆二さんは「あ、まじだ」と言って小さく笑った。

クシャッとしたその笑顔と仄かな香りに、また内側を引っ掛かれそうになる。

「じゃあ、あれだ。全然知らないんだ？俺たちのこと」

「知ってます……“リュウセイの人”」

「ふっ」

左の口角だけ上げて見せた隆二さん。

ちょっと悪い顔をしてて、それもまた私をくすぐる。

「お待たせしました」

個室のドアがノックされて、料理が運ばれてきた。

前菜はクリスマスカラーの野菜のゼリー寄せ。

「すっごいクリスマスっぽいね」

そう言って隆二さんは“よし、食べよ”と、ブルゾンを脱いだ。