No.1510。 (ページ33)

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憧れが終わる夜。ページ33

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連絡ブリッジの上で、隆二さんは「あー、走ったわ」と言い、傍にあったベンチに座りこんだ。

どうして良いか分からず突っ立ったままの私を、隆二さんが見上げる。

「……座んないの」

一瞬迷ったけど、いつまでも見下ろしているのも失礼。

私は少し頭を下げてから、隆二さんの隣に腰を下ろした。

「………俺さぁ」

「………はい」

「……付け狙ってるわけじゃないからね、Aちゃんのこと」

Aちゃん────

そんな風に私を呼ぶ人は今までいっぱいいたのに、彼の口から聞くとまた眉間がむずがゆくなった。

「わ、分かってます。あ！ここ、東京タワー見えるの知ってました！？」

「え？」っと後ろを向いたあと、隆二さんは苦笑いしながら私を見た。

「結構有名じゃない？」

「えぇっ！？」

「ドラマとかで出てくるよね」

「あ……あ、あれは此処なんですか」

「うん」

……ちょっと、間抜けだ私。

「………」

「………」

再び訪れた沈黙。

それを破ったのは

「ねぇ、あれってリュウセイの人じゃない？」

私たちの前を歩いていたカップルの言葉。

彼女の方が言ったその言葉に、彼氏が「こんなとこに居るわけないじゃん」と答え、二人は何事もなかったように通りすぎる。

「………」

「………」

「……聞いた？“リュウセイの人”だって」

「はい、聞いちゃいました」

「まだまだだねぇ、俺も」

「え？」

「名前、呼んでもらえるようにならないとね」

小さく笑った隆二さんがベンチから立ち上がり、キャップのつばをグッと下げた。

「飯食った？」

「い、いえ……」

「行く？」

「えっ」

「あ、彼氏怒っちゃう？他の奴とご飯行ったら」

「い、いえ……」

怒ってくれる彼氏は、もう半年ほど存在してません。

「じゃあ大丈夫だね。腹減ってたんだけど、こんな夜に1人でどっかの店入る勇気なくてさ」

「あ……ですよね」

私は微笑みながら、もう１度心の中で“ですよね”と呟いた。