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その台詞のあと、電話の向こうで風を切るような音が聞こえてきた。
“映画館の入り口あるとこで合ってるよね？”
その声が微かに上下していて、隆二さんが走っているんだと伝わってくる。
私もつられるようにして、爪先を蹴り出した。
“もしもーし”
「あ、あ、はい」
“合ってる？映画館のとこで”
「合ってます！」
今こうして走っている間、二人の距離が縮まっている。
そう思うと、もう周りの喧騒なんか聞こえなかった。
走って走って、階段を駆け上がり、連絡ブリッジの上に来て
必死に隆二さんの姿を探している自分に、私は戸惑ってた。
────私、隆二さんに早く会いたいと思ってる。
溢れる人波から彼を見つけようと必死になってキョロキョロと目を動かす。
“もしもし？着いた？”
「着きました……隆二さん……どこですか」
息が上がって途切れ途切れになる言葉。
“そこ、何か見える？”
「何か……あっ」
“何？”
「東京タワー……」
青と白のイルミネーションの先、ビルとビルの間に東京タワーが見えた。
“分かった。そこ動かないでよ”
隆二さんが、もうすぐ来る。
胸が騒いで、じっとしてられなくて、体をクルクル回しながら彼の姿を見つけようとしている私の肩に
ポンッと手が置かれた。
ハッとして振り向くと、
目の前に、白い息を切らして、笑ってる隆二さんが居た。
「はぁ……久しぶりにこんなに走った」
少年のように澄みきっていて純粋で、それでいて見つめている人を酔わせるような彼の瞳。
私はこの瞳に、
彼に、会いたかった。
「隆二さん……」
「ん？」
「……イヴなのに、1人なんですか」
その瞳に撫でるように真正面から見つめられて、頬が熱くなる。
「……そっちこそ1人じゃん」
東京タワーを挟んで微笑みを交わす私たちの間で、イルミネーションの色が切り替わった。
真っ赤なライトがルイ・ヴィトンのガラスの壁面に映りこんで、
私の心の色を写してるみたいだった。
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作者名：ぽち。
| 作成日時：2018年7月24日 22時
