No.1510。 (ページ23)

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お見知り置きを。ページ23

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お店でバッタリ会ってしまった私たち。

暫く視線をぶつけ合ったあと、隆二さんは私から目を逸らし足を１歩前に出した。

このお店は、階段を下りると1階はバーラウンジになっている。

彼はそこに行くはずだと、私は振り向いていた体の向きを戻し、またメニューに視線を落とした。

だけど────

予想に反して、隆二さんはカウンター席に腰を下ろした。

私が座っている席から、椅子ひとつ分空けて。

「今市くん久しぶりじゃない？」

シェフが隆二さんに声をかけ、彼も「ツアー中なんです。昨日名古屋から帰ってきました」と返事をした。

「疲れてるでしょ？好きなの食べて行ってね。何にする？」

「えっと……取り敢えずシャンパン下さい」

「はーい、じゃあ良いの出すね」

シェフと隆二さんの会話を左耳に聞きながら、私は小さく手を挙げた。

それに気が付いたのはお店のスタッフ、陽ちゃん。

陽ちゃんは船で出会った人。

“俺、この店で働いてるんです”と、お店のカードをくれたのがきっかけで、こんなに良いお店を知ることが出来た。

「注文、良いですか」

テーブルから下げてきたお皿を器用に両手に乗せた陽ちゃんは「何にする？」と私の横で立ち止まった。

「お、お茶漬け下さい」

「お茶漬け？それだけ？」

「うん。梅で」

「了解」

本当は野菜のフリッターを食べたかった。

日向夏のワインに合いそうだし……でも、この空気感に堪えられそうもないし、お店から早く立ち去るには“お茶漬け”が一番良い。

侘しい夕食になったなと思っている私の隣の隣の席に、泡の立つグラスがスッと差し出されたのが見えた。

「ロゼにしたよ」

「ありがとうございます」

シャンパングラスを持ち上げた隆二さんの姿を視界の端っこに捉えながら、私はある言葉を思い出していた。

────“ドンペリのロゼをピンドンって言う人居るでしょ。あれ下品だよねー……”

前の彼氏が遠くを見つめながら呟いた言葉。

こんなことを今思い出すなんて……この現実から目を逸らすために、頭が過去へと逃げているらしい。