No.1510。 (ページ21)

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この船は宇宙船をイメージした流線形ボディをしていて、船体の屋上にある遊歩甲板から景観が楽しめるようになっている。

ホタルナという名前は“月が輝く夜に神秘な輝きを放つ蛍が隅田川を舞う”「ホタル月」の意味。

私が好きなもの──海、船、宇宙

それを一度に楽しませてくれる乗り物。

乗船してすぐに船外に出た私は、夕暮れのレインボーブリッジや東京タワーなどを見ながら、波をバシャバシャと掻き分けていく船体の縁に視線を落とした。

───こんな風に生きたいと、小さな頃から思っていた。

どんな荒波も掻き分けていける、強い人になりたいと。

随分掻き分けていけるようになった気もするけれど、たまに波を跳ね返しているだけの時がある。

跳ね返した波は結局自分のもとに返ってきて、

それが結構痛い。

“また、連絡します”

隆二さんはそう言ったけど、あれから１週間以上経っても、彼の番号が私の携帯を鳴らすことはなかった。

やっぱり、からかってただけなんだ。

ずっと電話をチラチラと気にしていた私は、本当に“バーカ”だと思う。

───“右の人のこと、好きなの？”

好きじゃないよ。

一晩話しただけの人を好きになったりしない。

ただ、私もあの夜が楽しかったから。

楽しかったから番号を書き残そうとしたし、彼から電話に取り乱した。

別に何とも思ってない人からの電話なら、適当にあしらって一方的に切れば良かったのに。

それが出来なくて、“私が危ない人だったら”なんて言ってしまった。

隆二さんは“良い人”。

本当の所は分からないけれど、少なくともあの夜は私にとって彼は良い人で楽しい人だった。

だから、これ以上関わってそれを崩したくなかったのかもしれない。

────“右の人のこと、好きなの？”

好きじゃないよ。

これは、ただの“憧れ”と“幻想”────。

船がスピードを緩め、頬に当たる冷たい風が、ピタリとやんだ。