No.1510。 (ページ14)

今日:8 hit、昨日:29 hit、合計:500,791 hit

思いがけないこと。ページ14

・

.

.

「────っていう流れがあってね……」

私の話を聞いた純奈は、雷に打たれたような呆気にとられたような、不思議な顔をしている。

「え……ちょっと待ってよ。右の人の部屋に行ったってこと！？」

「うん……引く？引くよね！？引いて当然だよ！私だって自分に引いてるもんねー！」

「いや、引くって言うかさぁ……」

純奈は“疑いの眼差し”で、座っている私のお腹の辺りを見た。

「……やっちゃったの？」

「え？」

「右の人の部屋行って、足開いちゃったの？」

「……ひ、開くわけないじゃん！！何言ってんの！？」

「えーー！つまんなーい！」

「は！？」

純奈は椅子に座ったまま駄々っ子みたいに足をバタバタさせて「つまんなーい！」と繰り返した。

「人気急上昇中のアーティストと禁断の一夜過ごせよーー！」

「過ごさないよ！！あんたの貞操観念どうなってんだよ！」

「良いじゃん！Aフリーなんだし！そういう一夜もあって良いじゃん！」

「私はフリーだけど隆二さんがフリーか分かんないじゃん」

「あぁ、そっか。彼女居たらAは浮気相手になっちゃうもんね。それはダメだ」

純奈は束ねた髪をクルクルとまとめてクリップで留めたあと、冷蔵庫からコロナを２本取り出し常備してあるカットライムを瓶の口に差し込んだ。

「じゃあさ、部屋行ってお話してただけ？」

「うん」

「朝まで？」

「うん」

「真面目な音楽トークを？」

「うん」

「へぇー」

ニコニコ笑いながら、私にコロナを差し出した純奈。

二人同時にライムを瓶の中に押し込むと、炭酸の泡がシュワッと上がってきた。

「じゃあ、かんぱーい」

「な、何に？」

「Aが良いなぁと思ってた人と清潔な夜を過ごしたことに」

“清潔な夜”

その言葉が、どうかしていると自分に引いていた私の心にスッと落ちてきた。

私は“向こう側の人”と浮かれてたかもしれない、のぼせてたかもしれない。

でも、疚しいことも厭らしいこともなかった夜は、何も悪いことなんかない。