No.1510。 (ページ13)

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「あの人、来年辺り日本でもブレイクするんじゃないかなーって思ってるんですよねぇ」

「あ！俺も！」

二人で笑いながら向かったエレベーターは、チェックインの時に私が使った場所とは別だった。

それは、宿泊客の目に触れにくいように、フロアの一番端の奥まったところにある従業員用のエレベーター。

────そっか、こういう類いの人たちは目立たないようにこういうエレベーターを使うのか……。

私は変なところに感心しながらも、各階に停まるのは宿泊客用と同じだろうと隆二さんと箱に乗り込む。

「それで────」

エレベーターの中でもお互いに話が止まらなくて、扉が開いてフロアに足を踏み出したとき、

「あっ」

私は此処が自分の泊まっているフロアじゃないことにやっと気がついた。

「あ、隆二さん」

「はい？」

「私、11階じゃないんです……」

振り向いた隆二さんも「あっ」と小さく声を出した。

「すみません。私、話に夢中になってて気付かなくて……」

「あ……俺も気付かなくて……すみません」

────途端に、沈黙が訪れた。

広々とした廊下に、私たち以外の人の気配はない。

「…………」

「…………」

食べ終わったルームサービスの食器を下げに来た従業員の人が、無言で向かい合っている私たちに軽く会釈をして通りすぎる。

それを合図みたいにして、隆二さんが口を開いた。

「……良かったら、部屋でもう少し話しませんか」

「え……」

隆二さんの目尻がちょっと上がって、引き締まった顔になる。

「あの、無理にってわけじゃ、」

「お、お話します！」

自分で、自分がどうかしてると思った。

付き合ってもない男の人が泊まってるホテルの部屋で

さっきまで“向こう側”の人だった彼の部屋で、誘われるままに“お話します”なんて

私、どうかしてる。

どうかしてるけど、隆二さんが細めた目の目尻のラインが優しいことだけは、しっかりと分かっていた。

「じゃあ、えっと、部屋あっちです」

「はい」

廊下の花瓶に盛られた花が、

まだ新鮮な匂いを放っていた夜だった。