雪椿の頃。10 (ページ42)

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第三幕の時間が迫り、俺たちは店をあとにして劇場へと歩いた。

「あ！」

Aが急に大きな声を出し、歩いてきた道を振り返る。

「私、お店にハンカチ忘れてきた！」

「え？早く取ってきなよ！私たち待ってるから！」

四季はそう言ったけど、Aは「ダメダメ！」と手首を振った。

「始まっちゃったら申し訳ないから先に行ってて！」

「あ、じゃあ俺が一緒に」

「ダメ！隆二さんもみんなと入って！じゃあ！」

有無を言わせず、Aは淡い水色のワンピースの裾を翻し、来た道を走り出した。

スカートの部分がフワフワして邪魔なのか、Aは軽くスカートを詰まんでいる。

「Aさん可愛い！“舞踏会に遅れちゃう！”って感じ」

「……臣、変なこと言い出したから早くトミ連れて中入った方が良い」

「だよな」

「俺、そこの階段でAのこと待ってるわ。岩ちゃん達も入ってて」

「うん、分かった」

四人を見送り、俺は劇場の外の階段に腰を下ろした。

随分大きくて長い、立派な階段。

Aに告白したあの階段を思い出して、俺の頬は自然と緩む。

「まだかな……」

行き交う人を見ながらAを待っている間、俺は彼女の部屋のテーブルに置いてきたメモのことを考えていた。

今朝、支度で忙しかったAの代わりに、俺が椿の水やりをした。

最初に咲いた椿の花がベランダのコンクリートの上に落ちていて、俺はそれを拾い上げて水を張った器に浮かべた。

そして、罪の意味を考えた。

罪という言葉は、やっぱり悪い意味だけじゃない。

例えば、彼女も────

「隆二さん！待ってたんですか！？」

その声にハッとして、俺は回想をやめて急いで立ち上がった。

「早く早く！」

「中に入ってくれてたら良かったのに！」

「一人に出来ないだろ！」

Aはニッと嬉しそうに笑い、スカートを摘まんだまま階段を駆け上ってくる。

「転けるなよ！」

「大丈夫です！あっ！」