雪椿の頃。10 (ページ24)

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「隆二さん怒ったりしませんよー！でも私、飛んだり跳ねたりまだ出来ないから、座って観てるだけになりますもんね。トミちゃんと行った方が絶対楽しいですよ」

「うん。……なぁそれ、退院祝いタクシーで持って帰んの？」

「あ、はい。トランク入るかなぁ……」

首をかしげるAの足元に並ぶ荷物の量を見てると、微妙な感じ。

「隆二は？」

「隆二さんは収録」

「そっか。じゃあ誰か他のスタッフに。それか俺が、」

「臣さん」

「ん？」

「私のことは良いですから、早くトミちゃんとスタジアム行ってください」

Aは柔らかく笑って倉庫の外に視線を流した。

「トミちゃん、待ってますよ。臣さんのこと」

振り返ると、中の様子を覗くような格好でひなたが立っていた。

「あ、じゃあ行ってくるわ」

「はい、いってらっしゃい」

Aはひなたに手を振り、ひなたはそれに会釈で返した。

俺はバッグを持ち直し、ひなたの隣に並ぶ。

「早めに行くか。入るまでちょっと時間かかるし」

「はい」

事務所を出て少し歩いたところで、俺は何となく彼女の足元を見た。

「ヒール……ひなた、ヒールじゃ危ないよ」

「登坂さん……」

カツッと音を立て、ひなたが急に足を止めた。

「……私、やっぱり行きません」

「え？」

「登坂さん、私のことAさんの代わりにしてませんか」

常にくるくると動いているような彼女の丸い瞳が、微動だにせず俺を見ていた。

「Aさんのこと……本当にもう、好きじゃないんですか……」