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岩田さんが来たのは、その日の午後。
彼はベッド横の椅子に座るなり、私に「原子番号11」と言った。
「え?」
「え?じゃないよ。原子番号11!」
「ナ、ナトリウム」
「正解!次、48」
「カドミウム!」
「15!」
「リン!え、何ですか!?」
「俺、思い出したんだよ。Aがうちの事務所入ってきたときに歓迎会やったでしょ?そのときにAが“元素周期表暗記してます!”ってスラスラ言い出したやつ!」
「ありましたね!懐かしいです!」
「それを覚えてるかチェックしてんだよ。はい、77!」
「イリジウム!」
「83!」
「ビスマス!……岩田さん、私の記憶力は大丈夫ですって!それに、周期表は忘れてたとしても別に……」
「何で!将来子供に聞かれるかもしれないじゃん!“ママー、25ってなにー?”」
「マンガンよー……って、そんな可愛くない質問する子供には育てません。……どうかしました?何か変……」
岩田さんは、深くため息をついてバッグの中から1冊の雑誌を出した。
「これ見て。医学誌」
岩田さんがベッドのシーツの上に置いた雑誌の表紙は、四季のお父さんだった。
「わ!すごい!四季のお父さん!」
「すごいよなぁ……四季言わないんだもん、こういうこと。なぁ、お父さんに挨拶した方が良いと思う?」
「病院で!?」
「そう。どうなると思う?挨拶したら」
「んー……知らない間に麻酔吸わされて気が付いたら手術台の上」
「やっぱり?」
「メス刃10番!って」
「どこ切られるんだよ!」
私は肩をすくめて笑って、岩田さんの手を軽く叩いた。
「大丈夫ですよ。四季のお父さんとっても優しいんです。笑顔が素敵で……四季に似てる」
「優しいのはAが患者だからだろ?俺はさぁ……」
「岩田さんだって非の打ち所ないじゃないですか。どっから見ても好青年。それに、四季のこと大事にしてる。伝わりますよ、お父さんに」
「そうかなぁ……」
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2018年5月7日 19時