2 side H ページ36
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Aの左手を握り締めている彼の両手は、まるで祈ってるみたいだった。
「ずっと俺のこと見てくれてたのに、俺はそれに気付かなくて……だから、今度は俺が。Aが目を覚ましたとき傍に居てやりたい」
「……覚えてなかったらどうする。お前のこと」
酷な質問だと分かっているけど、これは今聞かなければいけない。
「覚えてなかったら……やり直すよ」
隆二はそう言って、Aの髪を撫でた。
「口紅踏んだとこからやり直す。Aにまた、好きになって貰えるように……何年かかっても」
「そっか……まぁ、倍の3年はかかるだろな」
「まじか。頑張んないと」
笑う隆二を見て、俺は四季にこう伝えようと思った。
“大丈夫。隆二は強いから大丈夫”
「俺、行かなきゃ」
「早いな、10分」
「うん……無理すんなよ?代わって欲しいときは誰かに連絡しろよ」
「分かった。ありがとう」
病室を出て、ふと窓に目をやる。
風で揺れる木々が音を立て、バチバチと雨が叩きつけている。
空気を打ち叩く重い光が続けざまにはためき、雷鳴が轟いた。
こんなに大きな音がしてるんだから、
起きろよA。
起きて今すぐ、彼の手を握り返せ────。
次々鳴り響く雷は、手で掴めそうなくらい
近くにいる。
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2018年5月7日 19時