探していた答え。side R ページ1
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雨上がり、濡れたアスファルト、湿った草木の匂い───。
あの朝と同じ、なまぬるい風を感じながら入った警察署の中は、深夜にも関わらず人が多い。
その廊下の奥、自動販売機の明かりだけが点いているような場所の長椅子に、Aは座っていた。
俯き背中を丸めて座っている姿は、いつもの鮮やかな彼女と違って薄暗い風景の中に溶け込んでしまいそうで────
“路上窃盗です。犯人に抵抗された際に地面に倒れられて少し怪我を。一人で帰宅出来るとおっしゃってますが、時間も時間ですし動揺されてると思うので────”
あの電話を受けたとき、次に息をするのも怖かった。
しっかりと呼吸をしてしまえば、これが夢じゃないことを突き付けられそうで、指先を動かすことすら怖かった。
「A……」
駆け付けたくなる気持ちを抑え、俺はゆっくり足を踏み出す。
一歩ごとに濡れたスニーカーから“キュッ”という音がして廊下に響いた。
体格の良い警察官何人かとすれ違ったあと、俺は俯いているAの前に立ち、
彼女の表情を伺うように、廊下にしゃがみこんだ。
「……大丈夫?」
「隆二さん……」
────いつもの、揺れる瞳が俺を捉えた。
「隆二さん、警察でそんなヤンキー座りしてたら、お巡りさんに注意されちゃいますよ……」
「されたらやめるよ」
まともに会話したの、いつ以来だろう。
よく見れば、彼女の髪は雨のせいで濡れていて真っ白なブラウスに泥がついていた。
「……ひったくりって、路上窃盗って言うんですって」
「らしいね。電話で警察の人が言ってた」
「私の場合は未遂ってつくらしいです。何か……歩いてたら後ろから自転車が来て、私のバッグ掴んで」
「うん」
「私、バッグ離さなくて倒れちゃって……叫んだら近くのお店から人が出てきてくれて……」
「捕まえてくれたんだよね」
「うん……犯人捕まったってニュースでやってたのに。あの件とは違う人だった」
堰を切ったように話し始めた彼女の手に、気が付けば自分の手を重ねていた。
繊細な指は所々赤くなっている。
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2018年5月7日 19時