雪椿の頃。7 (ページ46)

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「旅の恥はかきすて、ですよ。隆二さんも海入る？」

「焼けちゃう焼けちゃう。MVの絵が繋がらなくなるじゃん。“あれ？隆二Bメロのあとから急に黒くなってない？”ってなるわ」

私は「それ可笑しい」と声を上げて笑った。

「んで？そのネイルは？買ってきたの？」

「ううん！空港にトムフォードビューティーがあったんですよ！免税で安くてつい」

「あぁ、ホテル来る前に買ったの？」

「うんっ」

「手はもう乾いてる？」

「はい、大丈夫です」

隆二さんはそっと、私の指先を手のひらに乗せた。

「綺麗だね……」

「ボルドーラストって色なんです。深くて綺麗ですよね」

「いや、手」

「……私の？」

「うん」

私の手の甲を、隆二さんの親指が行ったり来たりする。

「隆二さんの手も綺麗……」

何となく目が合って、何となく私の頬は熱を持つ。

「………今、俺に押し倒されると思ってるでしょ」

「……少し」

隆二さんはニッと笑って私のバスローブの前を掻き合わせた。

「それは帰ってきてからにしとこー。Aが行きたいって行ってたレストラン、1時間後に予約してあるから」

「本当！？」

「席、窓側にしてもらったんだよねー。夕日見たいじゃん一緒に」

「見たい見たい！」

私は足の爪を指で触って確認してから急いでソファから立ち上がり、クローゼットへと走った。

「ねぇ隆二さん、どっちのワンピースが良い？」

白と黒のマキシワンピースを両手に持って、ゆらゆら揺らしてみる。

「んー……そっち、左！」

「こっち？すぐ着替えてきます！」

隆二さんが選んだのは、黒いワンピース。

デコルテ部分がシースルーの切り替えになっているノースリーブは、確かに夜向き。