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彼氏と別れた悲しい夜。
それでも人前では泣かないトミちゃんの強さ。
“雪すらも冬の寝床と耐え抜いて 咲く雪椿よ 待ち人来たれ”
あの詠み人の分からない句が頭に浮かぶ。
トミちゃんにも来るはずだ。
春を連れてきてくる人が。
“寒かったね”と、その手で雪を溶かしてくれる人が────。
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一晩明けて、私は自分のしたことが正解だったかどうか分からなくなっていた。
「四季、私やっぱ余計なこと言ったかな……」
溜め息をつく私の肩を、四季は小さく叩いた。
「決めたのはトミちゃん。Aが引き裂いたわけじゃない」
「うん……」
「大体ね、途中で帰された隆二さんが一番可哀想」
「えー……」
「分かってるよ。隆二さん自分から帰るって言ったんでしょ?優しいよねー本当」
プリントアウトした紙をホチキスで留めていた四季の傍に岩田さんが来た。
岩田さんは四季に何か耳打ちして、四季は“うんうん”と頷く。
「じゃあ」
岩田さんが立ち去り、私は四季の肘をつつく。
「なぁに?耳打ちしちゃってー」
「良いじゃん!別に!」
「あ、照れてる」
「照れてないから!今日チーク濃いだけだから!」
「素直になんなよー!」
私たちがじゃれていると「おはようございます!」と一際大きな声が聞こえた。
入り口の方を見ると、トミちゃんが立っていた。
バッサリと髪を切ったトミちゃんが。
「トミちゃん!髪切ったんだ!」
「はい!似合います!?」
「似合ってる!可愛い!ね!四季」
「うん!そっちの方が良いよ!ただねぇ、うちらと被ってるから。後ろ姿そっくりだから」
四季の言葉にケラケラ笑うトミちゃんの笑顔は、
本物だった。
「良かったね、トミちゃん。良かった」
「Aさん泣いてます?」
「泣いてないよ!今日は涙目に見えるメイクしてきただけ!」
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2018年3月29日 18時