雪椿の頃。7 (ページ30)

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暫く無言で掃除をしていた私たち。

先に口を開いたのは私。

「トミちゃん、今幸せ？」

「え？」

「最近、笑顔が強張ってるから何かあるのかなって……聞き出そうと思ってる訳じゃないんだけどね」

「はい……」

「後々、後悔するような涙は流してほしくないから。何であのとき、って。結構引き摺るんだよね、トミちゃんくらいの歳の時の出来事って」

「Aさんにもあるんですか？引き摺ってること……」

「ある……あった。でも平気になった。最近だけどね」

床をモップで拭いていたトミちゃんの手が、ピタリと止まった。

「……お金、貸して欲しいって言われてます」

「彼氏に！？」

頷いたトミちゃんの傷んだ髪が、小さな背中で揺れた。

「……貸したの？」

強く首を横に振ったトミちゃんに、私は胸を撫で下ろす。

「トミちゃん、偉いね。情にほだされちゃって貸しちゃう子もいるのに」

「偉くないです。結局うちでご飯食べてばっかだし、デート代も……仕事辞めたときに、私がもっと背中押せば良かったと思ってます」

「……そこまでしてあげなきゃいけないの？」

「え？」

「トミちゃんだってまだ１年目だよ？大変なこといっぱいあるでしょ、辞めたいと思ったこともあるでしょ。でも頑張ってる」

そういうとき、お互い背中を叩き合えるのがパートナーじゃないんだろうか。

相手が頑張ってるから頑張ろうって思える。

朝起きたとき、ため息が出るような理由を作る相手じゃいけない。

「トミちゃん、今幸せ？」

２度目の質問にも、トミちゃんは答えなかった。

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「A、栓抜きどこだよ、栓抜き」

その夜、うちに来た隆二さんは何だか良さげなリンゴジュースを持ってきた。

「栓抜きはそこの引き出しです」

だし巻きを作りながら、私は顎で引き出しの場所を指した。