4 side R ページ25
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「じゃあちょっとだけは?」
目を閉じたまま甘い声で言われると、ダメとは言えなくなる。
「じゃあ、ちょっとね」
「うん……みっともない?こういう姿」
「全然」
「良かった」
すぅーっと息を吸い込んだAが、「私……」と小さな声で呟いた。
「私、昔振られたことあって」
「……え?」
一体、何を聞かされるのか───彼女の頭を乗せている脚に緊張が走った。
「その人、大学のゼミで一緒だった人で。すっごく真面目な人。多分小さい頃のあだ名“博士”」
「分かりやすいな」
でしょ?と笑ったAは、リラックスしたように立てていた膝を伸ばした。
「私は彼を良いなぁと思ってたから、ゼミの合宿の時に結構積極的にいったんです」
「Aが!?積極的!?うそだろ!?」
「本当!まだ世間知らずのお子様だったから、怖いものなんかなかったんですよ」
「それでそれで!?」
思えば、こんな話するの初めてだった。
相手を気になりだした時に真っ先に聞くような過去の恋愛の話。
俺がもたついてたせいですっかり聞きそびれてた。
「それで、移動のバスの隣に座ったり観光するときは一緒に回ったり……」
「悩殺しに行ったんだ?」
「違う!傍に居たかったんです。で、最終日の夜に散歩に誘ったんです」
「うん。そしたら?彼女いるんだーとか言われたの?」
「ううん。“からかうのやめてよ”って言われました」
「え?」
「“☆さんが俺なんかのこと好きになるわけないでしょ”って」
「いや、それ、照れ隠しとかじゃないの?その頃ってさぁ、真に受けて恥かきたくないとかあるじゃん」
「ううん、あれは本心。世間知らずのお子様でも、それくらいは分かりました」
Aは目を開け、俺に向かって微笑んだ。
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2018年3月29日 18時