2 side T ページ19
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「次の日の朝まで一緒に居ない人が相手なら色んなことに寛容になれたし、寂しい夜じっと待たなくて良くなった。別に恋愛しなくても楽しいじゃんって思ってました」
「……思ってました?」
「そう。岩田さんとそういう仲になって、久しぶりに切ないって感情を覚えたんです。ちょうど、私の大事な友達が健気な片想いしてて」
頭の中で、Aが“えっ?”と振り返った気がする。
「その子、好きな人に彼女が居ても意中の人が居てもずーっとその人だけを見続けてました。やめたら?って忠告したこともあります」
「その好きな人が鈍感だからだよね」
「そうそう」
肩を揺らして笑った四季がイスに浅く座り直した。
「その子、いっぱい落ち込んだし泣いたと思いますよ。でもそれでも思い続けて、そのうち好きな人が振り向くようになった。角度で言ったら1度か2度ずつだけど、ちゃんとその子に振り向いたんです」
「そうだったね……」
「その姿見てたら、良いなぁって。良いなぁって思うってことは、私にも振り向いて欲しい人がいるってことで……」
思わず体に力が入ったせいか、プラスチックのイスがギィッと軋んだ。
「でも、私の好きな人は……私には勿体ない人」
「え?」
「聞いたでしょ?私、恋愛の浮き沈みが激しいんです。またいつ沈むか分かんないから……」
四季の髪が、肩先で風に揺れている。
「岩田さんのこと、振り回したくないんです。私の悪い癖で縛りたくない」
振り回したくない?
縛りたくない?
「四季、冗談やめてよ。もう振り回してるくせに」
何度もまばたきをする四季の大きな瞳が、小さく左右に動いた。
「週に1度、土曜の夜に会ってたとき、四季とこれからどうなるんだろって思ってたよ俺。付き合ってもなくて、恋愛でもないのに“これから”って考えてた。ヤバイのは俺も一緒」
事務所では何食わぬ顔して会ってるくせに、気が付くと四季との距離を縮めようとしてた。
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2018年3月29日 18時