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「ごめんね、遅くに」
部屋に来た隆二さんはいつもと変わらない柔らかい眼差しを私に向け、リビングに入ってきた。
「お茶……淹れますね」
電話では“怒ってない”って言ってたけど、本当だろうか。
岩田さんから“臣さんと隆二さん、二人で話に行ったよ”と言われてから、私の心臓はずーっと嫌なリズムを刻んでいる。
キッチンでケトルを火にかけ、私は少しつま先立ちをしてテーブルの前に座っている隆二さんを見た。
床に座り込んでいる隆二さんは、窓際の観葉植物を見ていて表情は伺えない。
私が隆二さんの立場だったら……立場だったら……やっぱりちょっと────
「A」
ふいに名前を呼ばれ、私はビクッと肩を震わせた。
「こっち来れば」
「うん……」
怒鳴られる？叱られる？それとも切々と今の気持ちを訴えられる？
ゆっくり歩いて隆二さんの隣に腰を下ろすと、彼はこちらを向いて私の髪に指を入れた。
耳の上を通りすぎた指は流れるようにうなじにかかり、私の背中を撫でる。
私の顔をなぞるように見ている隆二さんの瞳の動きを追っていると、急に視界が揺らいで背中に固いものが当たった。
隆二さんが、私を床に押し倒したからだ。
「ちょっと、隆二さん……」
隆二さんの体が乗っかって、その重さが私の体に広がる。
首筋に噛み付かれそうになって、私は思わず隆二さんの体を力一杯押し返した。
「ちょっと、本当に……」
でも、力で勝てるわけもなくて隆二さんの少し乾いた手がスカートをたくしあげて私の脚を登ってくる。
テーブルとソファの間の僅かなスペースで、私は身を捩り隆二さんの腕を掴んだ。
「待って待って、隆二さん！」
動きを止めた隆二さんの顔と私の顔は、ちょっとでも動けば額がぶつかるほどに近い。
十数秒の攻防のせいで、お互い少し呼吸が乱れていた。
「怒ってるんでしょ……」
「怒ってないって」
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作者名：ぽち。
| 作成日時：2018年3月29日 18時
