雪椿の頃。3 (ページ40)

今日:6 hit、昨日:45 hit、合計:502,999 hit

3 side R ページ40

・

「んじゃ寝ろよ！」

起こしたの俺っぽいけど。

ヨタヨタしながらベッドに潜り込んだAは、真っ赤な顔の鼻から上だけを布団から出している。

「病院行った？」

「はい……」

「何て言われた？風邪だって？」

「はい……」

「薬飲んだ？」

「はい……」

「何か要るもんある？」

Aは“ない”と首を振った。

「そっか。いやぁ……どうしようかな……」

ちょっと様子を見たら帰ろうと思っていたけど、この感じじゃ……

ここで“じゃあね”って帰ったら、非道だよな。

「寒くない？」

“うん”と頷いたAが乾いた咳をした。

「この部屋乾燥してない？加湿器ないの？」

「壊れた……」

「最近？」

「去年」

「買えよ！」

Aは眉を下げ、自分の頭上を指差す。

そこには大判のバスタオルが１枚、ハンガーにかかってぶら下がっていた。

「この部屋の広さでバスタオル……意味あんのかなぁ……まぁ、ないよりマシか？な？」

「はい……」

Aの大きな目は、瞬きもしないでこっちを見ている。

「それでー……」

天井を仰ぎ見てから

「飯は……」

聞いた時には、Aはもう寝息を立てていた。

「………寝たか」

どうしたら良いか分からず、取り敢えずその場に座ってみる。

「うーん」と頭をぐるっと回して目に入ったのは、ドレッサー。

置かれていたのは、整理整頓された化粧品と、Aが言っていた通りオーキッドソレイユの瓶。

でも彼女から漂っているのは、この匂いじゃない。

本当は何の香水使ってんの？

そう思いながらAの方を向くと、彼女は相変わらず眠ったまま。

────子供みたいな寝顔だと思った。

疲れや怯えのない、白く純真な子供みたいな寝顔。

なのに、妙な色気がある。