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「良いよ。待ってる!?待ってない!?ってスリリングな体験させてもらった」
笑顔の隆二さんがカップをテーブルに置いた拍子に、彼が着ている革ジャンからギュッと革が擦れる音がした。
他愛もない話をしている間、彼が動く度に聞こえるその音が、耳に心地良い。
「もう1杯飲む?」
「あ……私、終電が。今ならギリギリ間に合いそうだから」
「タクシー拾えば?」
「大丈夫です。電車の方が早いし」
私が笑顔でそう言うと、隆二さんは「そう?」と言ってカップの底に薄く残っていたココアを飲み干した。
「駅まで送るよ」
「え?」
「え?って。俺、冷たい男だって思われてる?」
「い、いえ!」
「なら良いけど」
私たちはちょっと笑って、店を出てから数百mの駅までの道を歩いた。
「本当寒いなぁ」
「寒いです……明日の朝、もっと寒いかも」
「やべぇな」
「やべぇです」
構内へと続く階段を降り、改札まで来たとき隆二さんが券売機へと歩いて行った。
戻ってきた彼が手にしていたのは“入場券”
「改札の中、入るんですか?」
「……送るってそういうことじゃない?」
今まで隆二さんとお付き合いしてきた女性たちは、こんな風に最後の最後まで見送ってもらったんだろうな……。
「あの、じゃあ、中まで……送ってもらいます」
「うん」
改札をくぐり、ホームへと向かった私は「えっ」と思わず足を止めた。
ホームには、人が溢れ返っている。
「何……これ……」
隆二さんと目を合わせて首をかしげた私の耳に、駅のアナウンスが聞こえた。
“ただいま電気系統のトラブルにより電車が止まっております。お急ぎのお客様には────”
「遅延……」
5分間隔で動いていても満員になる電車。
数本止まっただけでこうなるのは仕方ない。
人の流れに乗って列に並んだのは良いけれど、次の電車はいつ来るのだろう。
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2018年1月21日 17時