3 ページ26
・
店員さんを呼んだ隆二さんがココアを2つ頼み、お互いようやく一息ついた。
「………何で待ってたの」
椅子の背もたれに体を預けている隆二さんに訊ねられ、私は思わず目を伏せた。
「……愛さん」
「え?」
「仕事じゃなくて、愛さんと約束があったから来ないんだと思って……」
「うん」
「で……何か色々考えちゃって……」
この答えはどうかと思ったけれど、冷えた唇から嘘が上手く出なかった。
「私との約束より大事なことなんだろうなって……」
聞く人が聞いたら、これは“告白もどき”。
「………何でこの話に愛が出てくんの?」
「何で……って……」
インスタ見たから……とは、流石に言えない。
「会ってないよ」
口ごもる私をそれ以上追及することもなく、隆二さんは「本当に仕事だった」と言った。
「マネージャーに聞いても良いよ。原稿の確認が急に入って……愛の出版社じゃなくてね」
「………本当に?」
「………電話してやろうか?今から」
隆二さんがポケットから携帯を取り出す仕草をしたので、私は慌ててそれを制した。
「い、良いです!!信じます!仕事だったんですよね!!」
隆二さんは笑いながら「良かった」と言って体を起こし両腕をテーブルにつけた。
「ほっぺた、やっと赤くなってきたね」
「……はい」
少しだけ縮まった、二人の顔の距離。
「お待たせしました。ココアお2つです」
テーブルに置かれた2つのココアから、優しい湯気が上がっている。
「いただきます」
一口すすると、自然と「はぁ〜」と溜め息が出た。
隆二さんはそんな私を目を細めて見つめながら、テーブルに肘をついて同じようにココアを飲んでいる。
「ん。仕事残ってるってアレ嘘でしょ?」
「あ……はい。何かそう言った方が隆二さん気ぃ使わないかなって……バレちゃってるんでどうしようもないんですけど……」
「そっか……ごめんね、本当」
「ぜ、全然!よく考えたら、私が待ってなかったら隆二さん仕事場から真っ直ぐ帰れたのに……ごめんなさい」
818人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ぽち。 | 作成日時:2018年1月21日 17時