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午後9時台の日比谷線は、そこそこの混み具合。









上野方面に向かう車両はほろ酔いのサラリーマンが多い。









車窓に映る自分の顔をチェックしてから、私は“銀座”というアナウンスを聞いて口元を引き締めた。









ゆるゆるの唇で夜の銀座駅構内を歩く女は怖いだろう。









「寒っ……」









地上に出るための階段を駆け上がって、私はマフラーを強く巻き直した。









夜空に浮かぶ月さえも凍えるような夜。









有楽町の時計台までは、歩いてすぐ。









午前10時から午後10時まで毎正時、懐中時計型の時計盤がせり上がって、約4分半のからくり演出を行う時計台。









それがよく見える場所で立ち止まった私は、少し早かったかな?と首をかしげる。









思えば、待ち合わせの度に隆二さんが先に来ていた。









やって来る隆二さんを見るのも楽しみ。









「あ……」









音楽が流れ、時計がせり上がった。









金色の人形が出てきてクルクル回りながら演奏を始める。









道行く人は時計を見るために立ち止まったり、素通りしたり。









私は子供に戻ったみたいに、キラキラ光る時計を楽しい気持ちで眺めた。









────暫くして、演奏が終わり人形たちがお辞儀して、フェードアウトしていく。









午後10時。









最後の演奏を終えた時計台の下、私は辺りを見渡した。









隆二さんがどこからか歩いてきてるんじゃないかと、その姿を探して。









「まだかな……」









じっとしていると身体が固まりそうで、かじかむ手をコートのポケットに入れ、踵を上げたり下ろしたりしながら私は隆二さんを待った。

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作者名:ぽち。 | 作成日時:2018年1月21日 17時

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