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固く絞ったクロスを鏡に滑らすと、隆二さんは追い掛けるようにその場所を拭いていく。









大きなガラスを一人で拭くのは中々に骨が折れる作業。









手伝ってもらえて、良かった……二人の時間が、増えた。









「何か可笑しい?」









「え!?」









「いや、☆さん笑ってるから」









「私笑ってました!?笑ってませんよ!」









「あ、あぁそう?」









私が右に1歩動くと、隆二さんも右に1歩動く。









そうして鏡が半分まで綺麗になった頃────









「☆さん、良い店知ってる?」









「良い店?ご飯ですか?」









「ううん、ちょっと飲めるとこ」









「飲めるとこかぁ……あ!ありますよ、銀座駅の近くに」









「銀座?普段そんなとこで飲んでんの?」









「まさか!私が昔バイトしてたとこなんです」









「………それ高級クラブってとこ?」









「バーですよ!高級クラブは“ちょっと”飲みませんよ!」









「だよねー」









大体、あの場所で私が採用されるわけがない。









「小さいバーなんです。マスターと、今は大学生の男の子が二人でやってます。落ち着いてるし、人目も気にならないと思いますよ」









「へぇ、良いね」









「是非……」









そこまで言って、私は彼が誰と行くのか想像してしまった。









「あの……はい、是非行ってみて下さい……」









切なさを打ち消すようにクロスに力を入れてキュッと拭いたあと、









微かな水の筋が残っている鏡の中で、隆二さんと目が合った。









「……その店、一緒に行かない?」









「………え?」









鏡の中の隆二さんは“あっ”という顔をしてクロスを左右に振る。









「飲ませようとしてるわけじゃないよ!?働いてた☆さんとなら、色々教えてもらえるかなって……」









「………はい、行きます」









今まで、誰かの誘いにこんな即答したことがあっただろうか。









私は、私にビックリしてる。









「じゃあ、来週はどう?」









「はい、大丈夫です」









「待ち合わせは?良い場所あるかな」

3→←秘めたるもの。



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作者名:ぽち。 | 作成日時:2018年1月21日 17時

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