雪椿の頃。3 (ページ12)

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私が長椅子に腰を下ろすと、隆二さんは「んっ」とピンセットと右手を出してきた。

ピンセットを受け取り、隆二さんの手の甲を自分の手のひらに乗せ、恐る恐る右手の人差し指を握る。

その瞬間から、胸の辺りからキューキュー音がするみたいな感覚がして、私は小さく息を吐いた。

「痛かったら言って下さいね」

「うん」

隆二さんの綺麗な指先からほんの少しだけ先が出ているトゲは、掴めそうで掴めない。

「どこでトゲ刺さったんですか？」

「机。事務所の。欠けてんだもん」

「災難でしたね……」

指先に集中してるつもりなのに、ピンセットが微かに震えてうまく掴めない。

私が知ってる男の人の手はもっと武骨な感じだったのに、隆二さんの手はどこか繊細。

すぐそこに隆二さんが居て、その息遣いさえはっきり聞こえる距離。

私の胸の高さにある隆二さんの手を覗き込むようにして、私は赤くなりそうな顔を隠した。

「あのさ……」

「は、はい」

「ボタン、ありがとう。収録の日にあれ？って気付いて……付けてくれたの☆さんでしょ。昨日ちゃんと伝えられなかったから」

────ボタンのこと、隆二さんは本当に知ってた。

「……どうして私だって気付いたんですか」

「縫い方。他のボタンは糸が平行だったのに、第1ボタンだけ“×”になってたから」

「えっ！？私間違ってました！？」

思わず顔を上げると、隆二さんは笑っていた。

「“×”に縫い付けられたボタン、俺どっかで見たことあるなぁって思って。で、思い出した。昨日エレベーターの前で☆さんに会ったじゃん？」

「あ……収録行く前？」

「そうそう。☆さんは伸びをしてて、その時見た☆さんのコートの袖のボタンと一緒だーって思い出して」

「………それだけで？それだけで私って思ったんですか？」

「だって、取材の日にボタン取れそうになって……あの日に俺のコートに触れる人限られてるじゃん。まさか臣が縫うわけないし」

臣さんが繕い物をしている姿を想像して笑いそうになったと同時に、

何故、白ニットが除外されたのか気になった。