色戀、召しませ。─sequel─4 (ページ5)

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「持病はなかったと思うけど………そう言えばお母さんは長湯が苦手だったなぁ。一緒に温泉行ったりもしたんだけど、本当にちょっと浸かるだけで……あとお父さんの仕事に合わせて早く起きるのも辛いって。あれ、よく考えたら低血圧だったのかも」

────私の低血圧は、母からの遺伝だった。

何故か、それが嬉しかった。

「何か……他に思い出話とかありますか。私、何も聞かないままだったので」

大人になった今だからこそ、聞きたいことがたくさんある。

二人の馴れ初めや、幼い私のこと。

「あるある！」

橘さんは、色々と私に話をしてくれた。

父と母は若くして結婚し、若くして私を産み、それなりに苦労があったこと。

母は歌が上手で、父は若いのに昔気質なところがあったこと。

近所でも美人で有名だった母は、私を抱っこしていなければとても母親には見えなかったこと。

「それ、何となく覚えてます。私が近所の子と外で遊んでると母がパートから帰ってきて、井戸端会議してるおばさんたちが言うんです“Aちゃんのお母さん、本当に綺麗ねぇ”って」

溜め息混じりのその言葉に、子供ながらに“これはお世辞じゃないな”と、思っていた。

「お父さんもカッコ良かったしねぇ。役者さんみたいで。覚えてるでしょ？」

「子供目線で見る両親の記憶しかなくて……」

「そうなの？」

「私、写真がほとんどなくて……事故のあとのゴタゴタでどこかに行ってしまったみたいです」

「……ちょっと待ってて」

橘さんは自宅になっている２階に上がったかと思うと、物凄い早さでお店に降りてきた。

「写真て呼べるものか分からないんだけど、これ、年賀状。私が引っ越してからAちゃんのお母さんが送ってくれたの」

橘さんはそう言って、カウンターに２枚の年賀状を並べた。

それは、平成がまだ一桁だった頃の古い年賀状だった。