Please. ページ37
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「このマンションは?広いじゃん」
ゆかりから渡された間取り図を見て、私は「ダメ」と首を横に振った。
「広いけど家事動線が最悪なのここ」
「家事動線?そうなんだ。よく分かんないけど」
「これは?一筆書きで行けそうな動線だよ」
秀香がテーブルに置いた間取り図にも、私は首を捻った。
「この何に使って良いか分からない3畳間……何これ?怖いから却下」
「ちょっとー!Aさぁ、妥協も必要だよ?借りるんだからね?建てるんじゃないんだから」
「分かってるけど……」
ネットで見つけた物件や、隆二さんが紹介してもらった物件。
それらの間取り図が床に散乱した我が家は、さながら締め切り前のデスクみたいになっている。
「もー!疲れたー!人の部屋探しとかつまんなーい!」
ゆかりは大の字に寝転がり「つまんなーい!つまんなーい!」とバタバタし始めた。
「秀香もつまんないでしょ?」
「え?私は結構楽しいよ?こんな家賃のとこの間取りなんて普段見ないじゃん」
二人のやり取りを聞きながら、私は散らばった紙を1つにまとめる。
「ねぇねぇ、この家はどうなるの?」
「ん?」
「Aが隆二さんと一緒に暮らして……この家は?引き払うの?」
「うーん……そうなるよねぇ」
上京してからずっと住んできた家。
小さな庭と、たくさんの思い出が詰まった家。
私が引っ越すと、この家は取り壊され更地になる。
中目黒駅徒歩10分、40坪、自由設計……あっという間に買い手がつくはず。
「もったいないよねー……」
ゆかりが大の字のまま、天井を見上げ呟いた。
「もったいないよね。でも、2軒借りるのも何かね……」
「今市隆二がここに住めば良いんじゃない?」
「え?」
秀香は部屋を見渡し「それが良い!」と手を叩いた。
「いや、え、ここに!?」
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2017年9月2日 14時