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「好きなタイプなんかぼやっとした理想だよ。聞かれたら当たり障りのないこと言うだけ」
「でも私はその理想になりたいです。もっと明るくてね、可愛くてね、気が利いてね……」
こんな風に、すぐ泣かない人になりたいです。
「Aは明るいし、可愛いし、気が利くよ。何でそんな自己評価低いのかなぁー」
「………隆二さん優しいね。そんなに優しい人なのに、何で私なの?」
─────隆二さんはピタリと足を止め、私の方に顔を向けた。
「お前うるせぇなぁ!ごちゃごちゃごちゃごちゃ!」
「え……」
「何で?何で?って知らねぇよ!しょうがねぇだろ!好きになっちゃったんだから!」
自分が叱られたのは理解しているのに
“しょうがねぇだろ!好きになっちゃったんだから! ”
その台詞に頬が染まる。
「ごめんなさい。もう言わない」
「おー。そうしろ」
怒ってるような、笑ってるような、はにかんでいるような………隆二さんは不思議な表情をしていた。
「ごめんね、隆二さん」
「分かったって」
再び歩き出した隆二さんの髪が風に揺れて、私と同じシャンプーの匂いがした。
「酔うと暗くなるんです私」
「知ってる。今度好きなタイプ聞かれたら“酔うと暗くなる人”って答えるわ」
「……へへっ」
赤信号に、隆二さんは立ち止まる。
「あー、しんどい」
「やっぱ重いですか?」
「ううん」
「ん?」
「Aが好き過ぎてしんどい」
「え?」
「お前が好き過ぎてしんどいわー!」
隆二さんはそう叫びながら青信号に変わった横断歩道を走り出した。
「おぉぉぉーー!」
「おぉぉお!隆二さん速い速い!」
「好きだーーー!!」
「声が大きいって!隆二さん!」
私は笑い声を上げながら、振り落とされないように隆二さんの背中にしがみついた。
夏の終わりを告げる向かい風が目に沁みて、
また少し、涙が出た。
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2017年9月2日 14時