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暫くしてトイレから出てきた臣くんは、通路に居た私たちを見て「待っててくれたのかよー」と何故か涙目になった。
「そりゃ待ちますよ!ねぇ?」
「うん、勝手に帰んないでしょ」
3人でお店を出ると、そこそこの酔っぱらい臣くんは車を停めるために手を挙げた。
深夜の山手通り、意外なほどあっさりと1台のタクシーが私たちの方に寄ってくる。
「じゃあね、二人とも気を付けて帰んなよ……Aちゃんありがとね、今日」
“ううん”と首を振ると、頭が少しクラッとした。
「また何かあったら言ってね、臣くん」
「うん、ありがとう」
臣くんを乗せた車が、静かに走り去って行く────。
「ねぇねぇ………“ありがとね”とか“また何かあったら”とか………何?」
隆二さんは不思議そうな顔で私のことを見た。
「ちょっと色々あって……」
「ふーん」
「私たちも帰ろ。隆二さん」
そう言って足を踏み出した瞬間、私の体は大きく右に反れた。
「おいおい!」
隆二さんが慌てて私の腰を抱きかかえる。
「大丈夫かよ」
「飲みすぎました……足に来ちゃった」
隆二さんと二人きりになった途端に気が抜けたのか、私の酔いは全身を回り始めた。
「………靴脱ぎますね」
「はぁ!?」
「買ったばっかりなのに汚したくないから脱ぐ」
「裸足で帰る気!?」
「裸足は慣れてる」
靴の踵を持って片方ずつ脱いだ私は、それを指に引っ掻け裸足でアスファルトの上に立った。
「帰ろ、隆二さん」
「………はぁ」
肩で大きく息をした隆二さんは、アスファルトに左膝をつき「ほら」と私に背中を向けた。
「え!おんぶしてくれるんですか!」
「裸足じゃ危ないでしょ」
世話を焼かせているのは分かっている。
靴を履き替えれば良いことも分かっている。
でも今は、その背中に甘えたくて仕方ない。
「乗りますよ……」
「うん」
靴を履き直し、隆二さんの背中に体を預けると、彼は難なくヒョイッと立ち上がった。
「……重い?」
「全然」
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2017年9月2日 14時