色戀、召しませ。─sequel─4 (ページ29)

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I can do for you. ページ29

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「……どうしてですか？どうして追い掛けなくて良いんですか？」

座っている臣くんと、立っている私。

訳ありな、二人の構図。

「Aちゃん、俺らは別れたんだよ」

「分かってます。でも私はずっと疑問でした。彼女の話をするときの臣くんはいつも苦笑いしてる。本当は苦しいんじゃないんですか？辛いんじゃないですか？それを誤魔化す為に曖昧に笑ってるんでしょ？」

臣くんは掴んでいた私の手首を離し、代わりに背中を軽く叩いた。

「座って。ちゃんと……話すから」

“まぁ落ち着けよ”と言われてるみたいで、私は静かに息を吐き静かに空気を飲み込んだ。

誰よりも動揺し、取り乱していたのは私。

その証拠に、席についてグラスを持ったとき、手が震えていた。

「………Aちゃん覚えてる？出会った頃、彼女が結婚しようとしてたの」

「はい……」

「彼女はさぁ、人生を半ば諦めてたでしょ。“これでいい”みたいに……ずっと言われるままに流されて生きてきて」

「うん……」

「俺が彼女を好きになって付き合うことになって……彼女はきっと生まれて初めて“自分で選ぶ”ってことに触れたんじゃないかな。ほら、好きな部屋借りたり、新しい仕事始めたり」

彼女の部屋探しを手伝ったのは私だった。

臣くんの家と職場のちょうど真ん中に良い部屋を見つけた時、私と彼女は手を取り合って喜んだ。

あの頃、みんなから幸せの香りしかしなかったのに────。

「自分で取捨選択するっていう、そういう生活してるうちに俺じゃ嫌になったんだろ。自分の足で歩き始めた途端、“この人じゃない”って気付いたんじゃない？」

「何で？臣くん彼女のこと凄く大事にしてたじゃないですか……この人じゃないって、そんなこと思うかな……」

「大事にしてたけど……大事にしすぎたのかな。いちいち心配で。仕事で困ってないかな？職場で新しい友達できたかな？って」

彼氏と彼女じゃなくて、世間知らずな子供とそれを見守る親みたいだったと、臣くんは言った。