色戀、召しませ。─sequel─4 (ページ3)

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その勢いに私はただ、橘さんで間違いないだろう女性の動きを目で追うしかない。

「裏に花を植えてて、それを摘みに行ってたの」

店内には綺麗な生花に混じってドライフラワーも飾ってある。

手入れの行き届いた、気持ちの良いお店。

「よく訪ねてきてくれて……」

アイスコーヒーをカウンターに置いた橘さんは、まるで懐かしい写真を見るように私のことを見つめている。

「いただきます」

たった100m程歩いただけでカラカラになった喉をコーヒーで潤し、私は深く息を吐いた。

「美味しいです！すっきりしてて」

「水が良いから、この辺は」

私はもう一口コーヒーを飲んでから、少し背筋を伸ばした。

「急に訪ねてきてすみません。姉から橘さんのことを伺って………父と母のことを教えて頂けたらと」

「お姉さんから？」

「はい。☆の母と手紙のやり取りをしていたのを聞いて……私、今まで産みの両親と関係のある方にお会いしたことがないものですから……」

「そう……」

橘さんの目は、どこまでも優しくどこまで温かく、初めて来た場所なのに“帰ってきた”という感じがする。

「Aちゃんのお父さんとお母さんとは、お隣同士で。Aちゃんが産まれる前から」

「そうだったんですか？」

「うん。Aちゃんが１歳になる前に私はこっちに引っ越しちゃったんだけど、電話とか年賀状のやり取りなんかは続けてて………あの事故のこと本当に残念だった」

「はい……」

「当時まだ近所に住んでた人に連絡したらAちゃん施設に入ったって聞いて。ほら、お父さんとお母さんは駆け落ちみたいに………駆け落ちって今でも言う？」

「い、言います！」

「良かった、通じて」

橘さんはニッコリ笑い、今まで親戚と連絡が取れなかった理由はそれじゃないかと言った。

「私、赤の他人なのにどうしてもAちゃんのことが気になって気になって。施設に連絡しちゃって」

遠く離れた地で、たった一人になった私を案じ、橘さんは幾度となく連絡をしてくれたらしい。