3 ページ13
・
「何？ガキ扱いしてんの？」
「ううん！」
目黒川にかかる日の出橋に差し掛かり、私は欄干から身を乗り出すように川を覗き込んだ。
「魚、居るかな？」
「魚なんか居ねぇだろ」
「居ますよー！？ボラとか」
「嘘だー！」
「本当！東京湾から……こう……来るんです」
「“来る”って何だよ、“来る”って」
隆二さんは何かツボに入ったらしく声を上げて笑い出した。
「そ、そんな笑わないで下さいよ……何て言うの？川を上る？」
私は恥ずかしさを隠すように川を更に覗き込む。
「夜だから見えないでしょ。暗くて」
「うーん……あ！あそこ！」
私は欄干の柵の間に足を乗せ、川の端を指差した。
「あそこに黒い影ないですか！？」
「おい！」
瞬間、隆二さんは後ろから右腕を私のお腹に回し、ふわっと抱えるように抱き締めた。
「落ちるぞ！危ない」
「落ちない落ちない」
「落ちたらどーすんだよ」
「んー……そのまま東京湾まで下ってく」
「あほか」
柵に足を乗せている分、私の身長は高くなって隆二さんと視線が同じになる。
背中に隆二さんの体温と鼓動が伝わって、頬はくっつきそうな位に近い。
そんな体勢の中、隆二さんが私の肩に顎を乗せた。
触れ合っていない場所はお互いの靴の爪先くらいになった私たちの目の前、
緑の葉を付けた桜の枝が、風に揺れた。
「………今年、桜一緒に見ませんでしたよね」
「そうね……上手くいってなかった時だったから」
「一人で見たりした？」
「さらーっと。“咲いてんなー”みたいな感じで。Aは？」
「私もさらーっと。何かね、一人だと写真撮る気にもならなくて」
そのせいか、今年の春の記憶には、ぼやっと霧がかかっている。
「………写真で思い出したんですけど、隆二さんいつまでこうしてるの？」
「“こうしてるの？”って？」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 873人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「登坂広臣」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ぽち。
| 作成日時：2017年9月2日 14時
