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This time. ページ11





キッチンの窓から朝陽が射し込む中、橘さんから貰ったオレンジにナイフを入れる。









真ん中から二つに切ると、すっと鼻に爽やかな香りが入ってきて、私は思わず深呼吸をした。









「良い匂い」









くし型に切り、果肉と皮の間に切り込みを入れお皿に盛った頃、









「おはよ」









タイミングを計ったように隆二さんが起きてきた。









療養のための休暇も今日で最後。









隆二さんは相変わらず、夜中にうちに来てはベッドに潜り込んできている。









「おはようございます」









笑顔で挨拶を返すと、隆二さんはもう一度「おはよ」と言ってキッチンに立つ私の背中にくっついてきた。









「オレンジ食べたいから今朝はパンにしちゃいました。良い?」









「うん」









私の肩越しに腕を伸ばし、隆二さんはお皿の上のオレンジを摘まむ。









「休み、今日までだろ?」









「うん」









「今日のご予定は?」









「今日は地区のお祭りだから誰か誘おうかなぁって」









「ん!?」









オレンジを口に含んだまま驚いた表情をした隆二さんの顔がアヒルみたいで、私は“ぷっ”と吹き出す。









「オレンジの皮がくちばしみたいになってますよ」









「可愛いでしょ」









笑う私、照れる彼。









何でもない朝の景色だけど、その空気がいつもと違うと思った。









付き合っていると、ふとした瞬間にこの“空気”が変わるときがある。









初めてキスをしたあと、最初の朝、喧嘩のあとの仲直り─────









何かのタイミングで二人を取り巻く空気が濃くなる。









運命に触れた小さな旅を終え、私たちの空気はより濃くなった気がする。









目には見えない、私たちだけを取り巻く空気────。









「一緒に行きたいなぁ。俺、7時までには帰ってこれるけど。それじゃ遅い?」









「ううん、大丈夫だけど……隆二さん来たら目立つんじゃないですか?」









お祭りと言っても、地域住民が集まる子供メインの小さなもの。









私くらいの年代の人も来るから“浮く”ということはないだろうけど。

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作者名:ぽち。 | 作成日時:2017年9月2日 14時

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