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途端に汗が滲んで、カーディガンを脱いで腕にかけた。
────後ろでタイヤが砂利を踏みつける音が聞こえる。
隆二さんが車を切り返し、カフェの駐車場に入った音。
ここからは、私がちょっとだけ一人で頑張らないと。
「こんにちは」
お店のドアを開け中に入った私を“いらっしゃいませ”と迎える声はない。
「こんにちは!」
大きな声で言ってみたけれど、反応はない。
店内にはBGMが流れているし、挽き立てのコーヒーの良い匂いもしている。
でも、人の姿がない。
どうしたら良いのか迷っていると、後ろでドアが開く音がして私はパッと振り返った。
ドアの所に立っていたのは花束を抱えた年配の女性。
人が居ると思っていなかった様子で、「あっ」と驚いた顔をして持っていた花束を床に落とした。
「すみません、驚かせてしまって。お店のかたですか」
「ご、ごめんなさい!お客さんいらしてると思わなくて」
「あ、いえ。あの……手伝います!」
床にしゃがんで花を拾う女性の傍に私もしゃがみ、散らばった花を集める。
「今日は主人居なくて一人でやってるからバタバタしちゃって……地元の方じゃなさそうだけど、観光ですか?」
「観光ってほどじゃないんですけど………」
花を拾う横顔に、私は思いきって尋ねた。
「……私、☆といいます。こちら、橘さんが経営しているお店で間違いないでしょうか」
花を拾っていた手をピタリと止め、女性は私の顔を眩しそうに見つめた。
「あ、あの、☆は養父母の名字でその前の名字は───」
「Aちゃん」
「えっ」
「Aちゃんでしょ?」
私は驚きで“はい”と返事をすることも忘れ、小刻みに首を縦に振る。
「やっぱり!そうだった!暑かったでしょ?座って、何か冷たいもの出すから!ね、座って」
残りの花をかき集めた女性は、私にカウンター席に座るように促し、ドアに“close”のプレートをかけた。
「アイスコーヒー?それとも違うのが良い?」
「あ、えっと、アイスコーヒー頂きます」
「すぐ淹れるからね!」
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2017年9月2日 14時