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ゲラゲラ笑う四季を余所目に、私はお金を入れてクレーンを動かすレバーを握った。
「んーと……」
どの位置なら取れるだろう……
ゲーム機をあらゆる方向から眺めていると、ゲーセンの外に1台のタクシーが停まったのが目に入った。
何故かそのタクシーが気になった私は、柴犬とタクシーを交互に見ながらレバーを動かす。
「A、もうちょっと右じゃない?」
「本当?」
右に顔を傾けた私の視界の中、
タクシーから降りてくる二つの影───。
プラスチック板越しに見えるその二つの影の正体は、
「……え」
隆二さんと白ニットだった。
「……A、あれ……」
四季も二人に気が付いたようで、私と同じように顔を右に傾けている。
「また……二人で……あっ!」
呟いて肩を落とした弾みで手元が狂い、キャッチするボタンを押してしまった私。
「やだー!違う違う!まだ掴まないで!」
私の叫びを無視して、クレーンはゆっくり降下。
そして、柴犬の胴体を優しく掴んで
スルッと抜けた。
「………取れなかった」
タクシーから降りた二人は、馴れ合った感じで夜の街に消えていく。
ロリポップを口に含んだまま、その後ろ姿を見送る私たち。
目の前には、何もキャッチしていない虚しいクレーン───。
「……四季、柴犬取れなかった」
「………うん」
「………四季、二人は二日連続で会ってるね」
「……うん」
「ちょっと……落ち込んでも良いかな……」
「………飲み直す?」
「……うん」
────甘くないラブストーリーは、
ここにありました。
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2017年12月23日 23時