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隆二さんがフロアを出て、また1人になった私。
ランチボックスの隅にはポッカリと空いた隙間。
「毎日……食べてくれても良いですよ」
小さな声で隆二さんに届くはずもない返事をして、私は残りのだし巻きを緩む唇に押し込んだ。
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「ただいまー」
その夜、自宅に帰った私は部屋の寒さに思わず身震いした。
仕切りのない14畳のワンルームには冷気が充満している。
毎年冬が来る度に“もっと狭い部屋でも良かったかも……”と思ったり。
部屋に入って右手にベッド、左手にソファやテレビ。
正面にある大きめの棚の上には自然と増えていった観葉植物が置いてある。
「寒い寒い……」
私は照明のスイッチを入れエアコンをつけてから、コートを脱いでベッドスペースの奥にあるクローゼットの中にかけた。
ダッカールで前髪を留め、バッグから出したランチボックスを洗いながらポットのお湯を沸かす。
沸いたお湯でコーヒーを落としている間にリムーバーで口紅を落とす────
毎晩のルーティーンになっている作業。
今夜ひとつだけ違ったのは、バッグから顔を覗かせている黒い紙袋が気になって仕方ないこと。
「………」
コーヒーをゴクリと飲み込み私はバッグから紙袋を取り出した。
ベッドの足元にあるのはコンソールテーブルと細長いチェスト、そして壁掛けの鏡で作ったドレッサー。
その前に座り、私は真新しいリップスティックを眺めた。
“この色かなぁって買ってきたんだけど”
隆二さんの顔が頭に浮かんで、私は小さく溜め息を漏らす。
「………あ」
そう言えば、私は隆二さんにお礼を言っていない。
突然のことでビックリして“すみません”とか“気を使わせてしまって”とか……ネガティブなことばかり言ってしまった気がする。
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2017年12月23日 23時