Restart. side H ページ6
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────駅を背に、通りを左に曲がる。
カフェを通りすぎると閉店した服屋があって、そこの角を曲がるとレンガの外壁のマンションがある。
更にそこを通りすぎると、彼女の働く店が見える。
数週間前、この店の前を通りすぎようとして心臓が止まりそうになった。
あの頃より少し前髪が伸びただけで、何も変わらない笑顔の彼女がレジに立っていたから。
店に入ることも声をかけることも出来ずに、俺は横目で彼女を見ながら足早にその場を去った。
そして今日。
白と青を基調とした店の中へ、俺は足を踏み入れた。
カンナ、君に合うために────
「いらっしゃいませ」
棚に商品を陳列している店員が俺をチラッと見上げ、また棚に視線を戻す。
少しの居心地の悪さを感じながら、特に興味もない食器を見るふりをして店の奥の様子を伺う。
彼女は、居るんだろうか………
「あれ?臣さん」
横から声をかけられて驚いた拍子に、俺は飾ってあった食器を思わず倒しそうになった。
「あぶね!」
慌てて食器を押さえると心臓が音を立てて胸を打ち付けた。
彼女が、すぐ隣に居る────
「………食器、無事だから」
顔を彼女の方に向けた途端、頭が真っ白になった。
“久しぶり”とか“戻ったんだ?”とか言えば良いのに、微笑んでいる彼女を見たら言葉が全て飛んでしまった。
何で、そんなに普通なの?
何で、微笑んでるの?
君の中ではもう、完全に終わったことなの?
「何かお探しですか?」
「え?」
「………お買い物、ですよね?」
「あ、あぁ……うん。友達が……結婚するからそのお祝いに」
嘘。誰も結婚なんかしない。
「食器をプレゼントされるんですか?」
「いや……まだ、決めてなくて………何か、良いのある?」
「そうですねぇ………」
柔らかくふっくらとした頬、小さく形の良い鼻、熟れたような唇。
歳より少し幼く見えるその横顔を、俺はただ夢中で眺めた。
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2017年5月6日 21時