3 side R ページ20
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「はい!行くって伝えて下さい」
「良かったー。すぐ連絡しよ」
「あ、でも隆二さん」
「何?」
Aは言い出しにくそうに唇を軽く噛んだ。
「“でも”何?」
「私が事務所戻るってことは、食事会の日にはみんなには言わないで欲しいんです」
それかぁー………と、俺はソーサーごとテーブルにカップを置いた。
「この間から思ってたんだけど、事務所に戻るのやっぱ嫌なの?」
「い、嫌じゃないです!」
「そうかなぁ……俺には尻込みしてるようにしか見えないけど。嫌ならそう言いなよ」
「だから、嫌なんじゃなくて………」
「んじゃ何」
「………今、凄く上手く行ってると思うんです私たち。だけど、一緒に働いたら……そうは行かなくなるんじゃないかなと思って」
細い手首を自分で掴み、彼女は全身をきゅっと小さくした。
「例えば仕事中、隆二さんが私に注意したり叱ったりそういうことあると思うんです。それは全然良いんですけど、そのあと頭を切り換えて二人きりで会ったり出来るのかなって。仕事モードを引き摺ったままになりそうで」
「あぁ……そういうことか」
「広いように感じるけど、実は凄く狭い仕事場だから。同じ空気を吸い続けてるうちに息苦しくなるじゃないかなって……思います」
2手、3手先を読めるのは彼女の強味であり─────弱味。
「今の上手く行ってる状態が崩れるの嫌だなって……」
鈴を揺らしたような弱々しくも綺麗な声で、彼女は不安を口にした。
「んー………もう、最悪な事態は考えないんじゃなかったっけ?」
「こ、これは最悪な事態を考えてるんじゃなくて……建設的に考えてるだけです!」
「ふーん」
「逆に……隆二さんはどうして事務所に戻ってこいって言うんですか?私の生活のこと気にして?」
「まぁ、それもあるけど……」
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2017年5月6日 21時